【叙述トリック】~先入観と向き合う~
2024/11/20|社員ブログ
神戸製造チームの上田です。
私はよく本を読むのですが、特に好きなものはミステリー小説です。
一般的には、探偵役の人物が事件に仕掛けられた謎(トリック)を見破り、犯人を突き止める
という構造になっています。徐々に明かされる手がかりをもとに謎を解き、犯人に挑むことが楽しみのひとつです。トリックで有名なものは、アリバイトリックや密室トリックなどがありますが、今回は「叙述トリック」というものをご紹介します。
例えば次のような文章があります。
①「流行に敏感なAさん、今日はSNSで知り合った人とおしゃれなカフェで待ち合わせ。」
この文章を読むと、なんとなくAさんは20代くらいの人かな?と想像すると思います。
ですが次の文章が続くと、
②「節くれだった手で杖をつきながら、カフェのドアを開いた。」
一気にAさんのイメージが80代くらいに変わると思います。現実においてもこのような人は少数ながらいるはずですが、①の文章だけだと無意識に若い人を想像しますよね。
叙述トリックとは、作者が読者の無意識の先入観(思い込み)を利用し、作中の人物ではなく、読者自体に仕掛けるトリックのことです。作中ではうまく②のような状態を隠して物語が進み、終盤で明かされることが多いです。作者の意図にまんまとハマり、物語の世界が一変するような感覚がとても楽しいトリックです。上記の文章は年齢のトリックですが、性別や時系列など様々なものがあります。
残念な点は、叙述トリックが使われている小説を調べること自体が内容のネタバレになってしまい、楽しみが減ってしまうことです。(それでも騙されますが…)
この「無意識の先入観」というものは意外とやっかいです。
私は主に減圧脱水装置「Umie」のメンテナンス業務を担当しています。装置の運用にあたりトラブルが発生した場合、もちろん問題を解決しなければなりません。ですがトラブルの原因を探る際、「この機器の動作は普段どおりだから問題ないな」「この温度の数値は前回のデータと一緒だから関係ないな」といった先入観でスルーして、解決の手がかりを見過ごしたことがありました。
このような経験から今では、「問題ないように見えるから大丈夫」といった先入観をもたず、あらためて細部を確認するようにしています。例えば普段と違う機器の音や、微妙な温度変化など、一見関係がないように見える要素が、実はトラブルの原因だった、ということは少なくありません。自分で仕掛けた叙述トリックにハマらないように、今後も注意深く装置と向き合い、仕事に取り組んでいきたいと思います。